はじめに
「AIにすべてを奪われる時代が来る」と言えば、大げさに聞こえるかもしれない。
だが、それはもはや空想ではなく、現実味を帯びつつある。特に“著作権”という知的財産の砦が、静かに、しかし確実に崩れ始めている。
今回の焦点は、アメリカ著作権局のトップが突如として解任された一件。
背後には、AIによる著作物の大量無断使用、そして国家レベルでの規制骨抜きの動きが見え隠れする。
この記事では、なぜこの出来事が極めて危険な兆候なのか、そして我々クリエイター・エンジニア・研究者が直面する新たな脅威について解説する。
解任劇の背後にあるAI企業と政治の思惑
2025年5月、トランプ前大統領によってアメリカ著作権局の局長、シラ・パールマッター氏が解任された。
この発表は唐突であり、公式な理由は一切明かされていない。だが、前日には彼女自身の名で「著作権で保護されたコンテンツをAIのトレーニングに使うことの危険性」について詳細な意見書が提出されていた。
その文書は、明確に「膨大な著作物を無断で取り込み、既存市場と競合するAI生成物を出す行為はフェアユースではない」と警鐘を鳴らしていた。
特に違法アクセスによる学習素材の使用を問題視していた点は、まさに現在のAI企業の行動に真っ向から対立する内容だった。
その翌日に解任。偶然だろうか?
いや、私の知人でシリコンバレーでAIスタートアップを立ち上げた開発者はこう言っていた。
「今、政府と結びついたAI企業は、法的なグレーゾーンを一気に白に変えようとしている」と。
AI企業の“フェアユース”主張の危うさ
イーロン・マスク氏が率いるxAIや、OpenAIなどの有力AI企業は、「著作権作品の利用はフェアユースに該当する」と主張している。だが、その論理は「大量に使えばフェアユースになる」といった、まるで逆説のような解釈に基づいている。
OpenAIに至っては、「著作権付きデータのトレーニングがフェアユースでなければ、AI競争は終わる」とさえ発言している。つまり彼らにとって、著作権は障害物でしかないのだ。
さらにマスク氏は、ジャック・ドーシー氏の「知的財産法をすべて撤廃すべき」という極論に賛同する姿勢まで示している。
もはや、知財の保護は“足かせ”と見なされている。
技術の進歩は歓迎すべきことだ。しかし、ルールを無視した進歩がどれだけ危険か、歴史が何度も示してきたはずだ。
政権主導による“法の再定義”
トランプ政権はすでにAI規制を緩和する大統領令に署名している。
そして2025年7月には「AI優位性を維持・強化する行動計画」を打ち出すと公言している。
この一連の動きの中で、著作権という“足かせ”を外すことは、不可避だったのかもしれない。
驚くべきことに、パールマッター氏を任命した前国会司書カーラ・ヘイデン氏も数日前に解任されていた。
制度の根幹を司るポストが次々と政治的な意図で差し替えられる……これは単なる人事ではない。制度の「土台」を変えようとしているのだ。
下院運営委員会の民主党議員、ジョー・モレル氏は「これは法的根拠のない大胆な権力掌握行為だ」と強く非難している。
果たして、この警告にどれほどの人が耳を傾けているのだろうか。
まとめ
技術革新の名のもとに、著作権という人類の知的財産の結晶がないがしろにされようとしている。
もし今、我々がこの流れを見過ごすなら、AIによって「盗むこと」が当たり前になる社会が到来するかもしれない。
著作物を作る側も、使う側も、今一度問い直すべき時が来ている。
AIに著作権を奪われて、私たちは何を残せるのか?
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