生成AIのRAG(検索拡張生成)とは?|生成AIの課題を克服する最新技術

備忘録

はじめに

AIモデルが持つ知識に限界を感じたことはないだろうか?
従来の生成AIには「知識の固定化」や「精度の限界」という課題を抱えている。
膨大なデータベースから情報を検索し、その結果を基に生成を行う「検索拡張生成(RAG)」は、こうした課題を解決する技術だ。

この記事では、RAGの仕組みや特徴、そして応用可能性について解説する。


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生成AIが抱えている課題

知識の固定化

従来の生成AI(例。GPT-3や他の大規模言語モデル)は、膨大な量のデータを使用して学習を行います。
この学習データは、モデルのトレーニングが行われた時点の情報に基づいています。その結果、以下のような課題が生じていました。

具体的な課題

  1. 情報の陳腐化: モデルが学習したデータが古くなると、新しい情報に対応できません。例えば、技術や法律が頻繁に更新される分野では、AIの知識がすぐに時代遅れになります。

– 例: 「2025年のトレンド技術を教えて」と質問しても、トレーニング時点(例えば2023年)の情報しか基にできないため、最新の情報を提供できない。
2. 外部知識との統合困難: モデルは独立して動作するため、トレーニング後に追加された情報を簡単に組み込むことができません。これにより、最新情報や専門的な内容を反映する柔軟性が欠如していました。

実例。

  • 新型ウイルスやパンデミックの発生時、従来の生成AIでは最新のワクチン情報や症例に基づく助言を提供するのが難しい。
  • AIが提供する旅行情報が、トレーニング時点のものに限られ、現在の交通状況や観光地の営業情報を反映していない。

精度の限界

従来の生成AIは、学習したデータセット全体に基づいて統計的なパターンを用いて文章を生成します。しかし、この手法にはいくつかの精度上の課題があります。

具体的な課題

  1. 文脈の理解不足: 学習データが広範である一方、文脈を正確に理解できないケースが多い。特に曖昧な質問や複雑な問いには、的外れな回答を生成することがあります。

– 例: 「ある条件下での特定の法律の適用範囲を教えて」という専門性の高い質問に対して、曖昧な一般論を答えるだけで、質問の意図を的確に汲み取れない。

  1. 専門知識の限界: 学習データには一般的な情報が多く含まれる一方、特定の専門分野の詳細な知識が不足しているため、高度な質問に対する回答が不正確になりがちです。

– 例: 医療や法律などの分野で、誤った情報を提供する危険性がある。

  1. 誤情報の生成: モデルが確信を持てない場合でも、非常に流暢で正しいように見える回答を生成することがあります。これがユーザーに誤解を与えるリスクを高めます。

– 例: 質問に対して、存在しない研究やデータを引用するかのような文章を生成する「幻覚効果(AI hallucination)」。


解決に向けたRAGの貢献

これらの課題を解決するために登場したのがRAG(Retrieval-Augmented Generation)です。RAGは以下のように貢献します。

  • 知識の固定化を克服。外部データベースをリアルタイムで参照し、最新かつ正確な情報を取り入れる。
  • 精度の限界を打破。検索結果を生成のコンテキストとして利用することで、専門的で正確な回答を提供。
  • ユーザーの信頼性向上。生成された回答に情報源を付与し、透明性と信頼性を向上させる。

RAGは、これまでの生成AIの弱点を補い、実世界での利用可能性を飛躍的に向上させる技術として注目されています。


RAGの仕組みとは?

RAG(検索拡張生成)は、AIの生成能力と検索技術を組み合わせたハイブリッドアプローチである。その中心となるプロセスを以下に具体的に解説する。

1. 情報検索フェーズ(Retrieval Phase)

まず、ユーザーが提供したクエリに基づいて、外部の情報源から関連するデータを収集する。この情報源には、企業のデータベース、インターネット上の公開データ、あるいは特定のドキュメントセットが含まれる。
検索技術には主にベクトル検索が使用される。この技術では、クエリと文書をベクトル空間にマッピングし、類似性スコアに基づいて関連度の高い文書を特定する。
具体例として、「Pinecone」や「Elasticsearch」などのツールが使われる。これにより、従来のキーワード検索では見つけられない意味的な関連性を高精度で取得可能となる。

2. 生成フェーズ(Generation Phase)

検索で得られた情報を基に、生成AIが回答を生成する。この生成モデルには、GPTやPaLMといった自然言語生成技術が用いられる。
検索結果はそのまま利用するのではなく、生成モデルが適切な文脈に統合し、自然で一貫性のある回答として出力する。この段階では、以下の要素が考慮される。
– 情報の要約。検索結果が複数存在する場合、AIが重要な部分を抽出・統合する。
– 質問への適応。クエリの意図に合った回答を構築するため、余計な情報は排除される。

具体例

ユーザーが「最新の機械学習トレンドを教えて」とクエリを入力した場合、RAGは次のように機能する。
1. 情報検索フェーズで「最新の学術論文」や「信頼できるニュース記事」を収集する。
2. 生成フェーズで収集した情報を基に、自然で分かりやすい形で要約する。
こうして、知識の精度と生成された文章の流暢さを両立させる。


RAGの主なメリット

RAGは、従来の生成AIでは対応しきれなかった課題を克服するためのソリューションである。その具体的なメリットを以下に挙げる。

1. 情報の最新性

生成AI(例。GPT)はトレーニング時点のデータに依存し、モデル更新なしでは最新情報を取得できない。しかし、RAGは外部の検索技術を利用するため、リアルタイムの情報取得が可能である。
– 具体例: 医学分野で、RAGは最新の研究論文を検索し、診断や治療の参考となる情報を医師に提示する。このため、診療の精度向上が期待される。

2. 幅広い応用可能性

RAGの柔軟性は、応用範囲の広さに表れている。たとえば。
– 法律分野: 法改正や判例をリアルタイムで検索し、文脈に応じた解説を提供。
– カスタマーサポート: 顧客からの複雑な問い合わせに対し、FAQやマニュアルを検索して適切な回答を生成。

このように、業界固有の知識が必要な状況で特に効果を発揮する。

3. 計算コストの削減

大規模な生成AIモデルに全ての知識を事前学習させるのは非効率的であり、計算コストが増大する。一方、RAGは「必要な時に必要な情報を検索」して利用するため、学習モデルを小規模に保ちつつ、高度な知識を提供できる。
– 具体例: 中小企業のFAQシステムでは、全ての情報を事前学習させる代わりに、RAGを活用してデータベースから必要な情報のみを検索・提供する。この方法は、運用コストの最小化につながる。

4. 正確性と信頼性の向上

RAGは情報源を明示的に示すことが可能である。生成された文章がどの情報に基づいているのかをユーザーに提供できるため、信頼性が向上する。
– 具体例: 学術研究の補助ツールとして、引用元の情報を含む参考文献リストを生成する機能が搭載されることが多い。これにより、生成された内容が検証可能となる。


実装方法と技術スタック

RAGを実装する際に必要な主な要素は以下の通り。

技術 使用例 備考
ベクトル検索 Elasticsearch, Pinecone 検索精度向上のための技術
生成モデル OpenAI GPT, Google PaLM 検索結果をもとに文章を生成
データ管理 NoSQLデータベース, データレイク 検索対象の情報を保持
統合API LangChain, Haystack RAGの各コンポーネントを統合

設定例 (LangChainを用いた実装の基本構造)

以下は、RAGの簡易な構成をYAML形式で示した例である。

search:
type: vector_search
provider: Pinecone
embedding_model: sentence-transformers/all-MiniLM-L6-v2
generate:
type: text_generation
model: openai-gpt-3.5-turbo
input: retrieved_documents
integrations:
langchain:
prompt: >
"以下の文書を基に回答を生成してください。{retrieved_documents}"

よくある課題とその解決策

RAGは強力な技術である一方で、適切な実装や運用が求められる。以下に、よくある課題とその具体的な解決策を示す。

1. ノイズの多い検索結果

課題: 検索エンジンが関連性の低い文書を返す場合があり、その結果、生成AIが無関係な回答を出力する可能性がある。
解決策:
– ベクトル検索で使用する埋め込みモデルを最適化する。具体的には、用途に応じた埋め込みモデル(例。sentence-transformers/all-MiniLM-L6-v2)を選択する。
– 検索結果のフィルタリングを強化し、関連性スコアが低い結果を除外する。
具体例: 顧客サポートシステムでは、FAQデータにメタデータを付与し、特定のカテゴリに基づいたフィルタリングを適用することで精度を向上させる。

2. 計算リソースの負荷

課題: 大規模データセットを検索対象にする場合、検索と生成の両方で高い計算負荷が発生する。
解決策:
– キャッシュ機構の導入: 最近のクエリ結果や頻繁に使用されるデータをキャッシュし、検索負荷を軽減する。
– データセットの分割: 優先度やカテゴリ別にデータを分割し、検索範囲を限定する。
具体例: eコマースサイトでは、商品のカテゴリーごとにデータを分割し、検索クエリが関連するカテゴリー内でのみ実行されるように設定する。

3. 生成内容の正確性

課題: 検索結果に含まれる情報が不正確または偏っている場合、生成される回答にも誤りが含まれる可能性がある。
解決策:
– 情報源の品質評価: 信頼性の高い情報源のみを検索対象にするフィルタリングを実施する。
– ユーザー検証機能: 生成結果に引用元のリンクを添付し、ユーザーが出典を確認できる仕組みを提供する。
具体例: 医療分野では、検索対象を「PubMed」や「WHO」といった権威ある情報源に限定し、生成結果には引用情報を明示する。

4. 情報の一貫性

課題: 検索結果が複数の異なる情報源から取得された場合、生成された内容に矛盾が生じることがある。
解決策:
– コンテキストの重視: 検索結果を生成フェーズに渡す前に要約・統合し、一貫性を確保する。
– 矛盾の検出アルゴリズム: 矛盾する情報を特定し、信頼性の高い情報を優先する。
具体例: ビジネスリサーチツールでは、異なる市場調査レポートを統合しつつ、最も最近のデータを優先して使用する。


RAGの応用例

RAGはその柔軟性とリアルタイム性から、さまざまな分野で応用が進んでいる。以下に具体的な応用例を示す。

1. カスタマーサポート

企業のカスタマーサポート部門では、FAQや内部文書からの検索結果をもとに、顧客の質問に対する正確な回答を生成する。
– 具体例: ソフトウェア企業のサポートチャットでは、ユーザーが「インストールエラーの解決方法」を尋ねた際に、関連するFAQや技術マニュアルを検索し、解決手順を要約した回答を即時提供する。

2. 教育・リサーチ

RAGは、学術分野や教育機関で幅広く活用されている。学生や研究者が求めるトピックに関連する文献を検索し、その内容を要約・解説するツールとして機能する。
– 具体例: 大学の研究室では、RAGを用いて「深層学習モデルの最新論文」を検索し、それを基に研究発表資料を作成するプロセスを自動化している。

3. 医療診断支援

医師が患者の症状に対応する診断や治療計画を立てる際、RAGが医学論文や治療ガイドラインをリアルタイムで検索し、提案を行う。
– 具体例: 医師が「特定のがん治療における最新の臨床試験結果」を知りたい場合、RAGは関連する論文を検索し、要約を提供することで意思決定を支援する。

4. 法律分野

法律事務所やコンプライアンス部門で、RAGは最新の法改正や判例を検索し、それに基づくアドバイスを生成する。
– 具体例: 弁護士が「新しいデータ保護法の影響」をクライアントに説明する際、関連する条文と判例を検索し、わかりやすい言葉で解説する。

5. マーケティングとトレンド分析

市場動向や消費者行動の分析にもRAGが応用されている。マーケティング担当者は、ソーシャルメディアやニュース記事から最新のトレンド情報を収集し、それを基にキャンペーン戦略を策定できる。
– 具体例: ファッションブランドが「2023年春の人気色」についてのトレンドデータを収集し、その結果をもとに新しいプロモーションコンテンツを生成する。


まとめ

RAGは、AI技術の進化による新たな可能性を示している。検索と生成の融合により、従来のAIでは実現できなかったリアルタイムの知識提供が可能となった。
今後もRAGの応用範囲は広がり、私たちの生活やビジネスに深く根付いていくだろう。

コメント

  1. ぶるーべりー より:

    前のハルシネーションの記事でも思いましたが、どの程度信用できる結果なのかを生成AI側で評価したり、適切な答えが得られなかった、という結論を出すのは意外に難しいみたいですね。人間の感覚からするとちょっと不思議な部分です

    • 山猫 シロ 山猫 シロ より:

      コメントありがとうございます!(返信が遅れてしまい申し訳ありません。)
      人間にとっては「なんとなく違和感がある」といった直感的な判断が可能ですが、AIは確率やパターンに基づいて応答するため、間違っていても自信満々に答えてしまうのでしょうね
      このあたりのギャップは、人間の感覚とAIの仕組みの違いを考えると、とても興味深いポイントだと感じます。