ディズニー・ユニバーサルが画像AI企業を提訴した理由とは?AI生成画像と著作権の境界線を読み解く

備忘録

はじめに

AIが描いた「ダース・ベイダー」や「ミニオン」がSNSに流れる日常。
その裏で、大手エンタメ企業がついに動いた。
2025年6月、ウォルト・ディズニーとNBCユニバーサルが、画像生成AI企業ミッドジャーニーに対し、著作権侵害で訴訟を起こした。

スター・ウォーズ」や「怪盗グルー」シリーズのキャラクターが無断使用されたという主張が、業界を揺るがしている。

この記事では、この訴訟が意味すること、そして生成AIを利用するすべてのユーザーにとって無視できない著作権問題について解説する。

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訴訟の背景と主張のポイント

なぜ今、ディズニーとユニバーサルが動いたのか?

生成AIの利用は急速に広がっており、特にミッドジャーニーなどの画像生成ツールは商業クリエイターや一般ユーザーに広く普及している。
SNSでは「ダース・ベイダー風の猫」「ミニオン風の悪魔」など、明らかにオマージュを超えた模倣画像が散見されている。

ディズニーやユニバーサルが今回動いた背景には、以下のような理由があると考えられる。

  • キャラクター資産(IP)の無秩序な流用によるブランド価値の毀損
  • 他の著作権者やスタジオに対する牽制
  • 今後のAI法制化における「立場取り

特にディズニーは、キャラクター管理の厳格さで知られており、過去にもファンアートに対して警告を出したことがある。
今回の動きはその延長線上にある。

訴訟の主張内容

訴状の内容を要約すると、以下の主張が軸となっている。

  1. 著名キャラクターの明確な「無断利用」があった
     例:ダース・ベイダーに酷似した姿、ミニオンの特徴を持つキャラクターが生成され、一般に公開された

  2. ミッドジャーニーのサービスが、著作権侵害を「可能にし、黙認していた」
     → プロンプト入力で著作物に似せた画像が簡単に生成できる設計になっており、企業としてそのリスクを制御していない

  3. 商業目的での使用が確認されている
     生成された画像が動画素材やアバター、デジタル商品などに使われている例が報告されており、それが侵害を一層深刻にしている

  4. AIによる模倣行為は“盗作の底なし沼”
     これは、単なる偶然やファンアートとは異なる。あくまで「体系的な模倣」「大量かつ高速な生産」が行われている点が問題視されている。


補足:今後の動きと企業・個人が取るべき対策

この訴訟がきっかけとなり、以下のような流れが予想される。

  • AI企業による「著作物フィルタリング機能」の搭載義務化
  • プロンプトに基づく出力内容の制限
  • 著作権者側による「学習禁止リスト」の整備
  • 法改正による学習データ収集ルールの明文化

クリエイターやAIユーザーは、次の点を実践しておくことが安全策となる。

  • 有名キャラクターに言及しないプロンプト設計
  • 出力画像に関する商標・著作権チェックの徹底
  • AI出力物であることを明示し、誤解を招かない運用

AIによる画像生成と著作権の交差点

生成AIは、従来の創作物とは根本的に異なる構造を持っている。
学習→生成→出力」というプロセスを経る中で、どの段階が著作権に抵触するのかが非常に曖昧で、これが法的・倫理的に大きな課題となっている。

学習段階:合法とされるが…

AIはインターネット上に存在する画像やイラストを数千万件単位で収集し、それを「学習データ」として用いる。
これ自体は多くの国でフェアユースや著作権例外に含まれるケースが多い。
日本でも「情報解析のための利用」は著作権法第30条の4で一定程度認められている。

ただし、ここに「無許諾で取得された画像」が含まれる場合、倫理的な批判を免れることは難しい。

生成段階:AIが模倣してしまう現実

AIの出力結果は、完全なコピーではないことが多い。
しかし、構図・色彩・キャラクターの特徴が似ていれば、それは「依拠性あり」と判断される可能性がある。
依拠性とは、ある作品が他の著作物に基づいて作られたことを示す概念で、著作権侵害の判断材料になる。

完全に新しいものを生成している」と思い込んでいても、実際は特定作品に極めて似通ったものが生成されてしまうケースが後を絶たない。

出力・公開段階:ここで法的リスクが現実化する

出力された画像が、

  • 商用利用される(例:YouTube動画、広告バナー、NFT販売)
  • 公共の場で共有される(例:SNS投稿、商品化)

このような使われ方をした場合、著作権者が侵害を主張する余地が生まれる。

重要なのは、生成AIそのものよりも「その画像をどう使うか」が問われるという点。
AIツールを作った企業と、使ったユーザーのどちらが責任を持つのか、その線引きが不明瞭であることが、さらに混乱を招いている。


規制は不可避か?それとも創造性の抑圧か?

コメント欄にはさまざまな意見が飛び交っている。

  • 「学習素材は無断使用。出力物も無断使用。ならば侵害だろう」
  • 「AIの出力が商用か非商用か、判断する仕組みが必要」
  • 「著作権者が明確なガイドラインを出すべき」
  • 「ディズニー自身も生成AIを使ってるのに…」

議論の中で特に興味深い視点は、「AIの創造性をどこまで認めるのか」という問い。
人間の創作とAIの出力をどう峻別するか。この問題は、法整備が追いついていない現状を浮き彫りにしている。


AIユーザーが今すぐ取るべき行動

生成AIを巡る著作権問題は、単なる業界の議論にとどまらず、個人クリエイターやYouTuber、デザイナーにも直接影響を及ぼす段階に入っている。
知らなかった」では済まされない。著作権リスクを避けるには、明確な行動が必要だ。

1. プロンプト設計に著作物を入れない

たとえば「ドラえもん風のロボット」や「ミニオン風キャラクター」というプロンプトは、意図的に著作物の特徴を借用しているとみなされる。
これは著作権侵害の疑いを招く危険な操作だ。

やるべきこと:

  • ○○風」「○○に似た」といった表現を避ける
  • オリジナルのスタイルや要素を用いた創造的プロンプトに切り替える
  • キャラクター名や商品名などの固有名詞を含めない

参考例:NGプロンプトとOKプロンプトの違い

NG例 OK例
ピカチュウ風の黄色い動物 黄色くて稲妻模様のオリジナル動物
ミニオン風のキャラ 丸くてコミカルな表情のキャラクター

2. 商用利用を前提とするなら素材の二次利用可否を確認する

AIで生成した画像を「無料素材」として扱っていないか?実はこの認識が最も危ない。
たとえAIが出力した画像でも、元の学習データに依存している場合、その素材を商用で使うことは法的リスクを伴う。

特に注意すべき用途:

  • YouTubeのサムネイル
  • NFTやアバター販売
  • 広告、チラシ、商品パッケージ

やるべきこと:

  • 利用しているAIサービスの利用規約を読み込む
  • 商用ライセンスが必要なサービス(例:Midjourneyの無料プランは非商用限定)を把握
  • AI出力物は自己責任」と書かれているサービスでは自己判断を避ける

3. AI出力物の「似すぎ問題」に注意する

AIが生成した画像が「似ている」かどうかは、法律上とても重要だ。
特に日本の著作権法では、以下の2点が争点になる。

  • 依拠性:元の作品を参照した可能性があるか
  • 類似性:特徴的な構成・表現が似ているか

たまたま似た」では済まされない。問題が起きてからの「説明責任」は、基本的にユーザー側に求められる。

やるべきこと:

  • 出力された画像と既存作品を比較するクセをつける
  • 怪しいほど似ていると感じたら公開を避ける
  • 他人に「これ○○っぽいね」と言われた画像は一度棚卸しする

4. AI出力物には“明示”と“制限”を付けて使う

生成AIを使うこと自体は悪ではない。問題はその透明性と運用方法にある。
生成物がAIによるものだと明示することで、受け手の誤解を避けられる。加えて、作品の流通範囲をコントロールすべきだ。

やるべきこと:

  • 画像に「AI生成物」と注釈を入れる
  • 二次利用・転載を禁止する旨を明記する
  • 自分のサイトやSNSで使用ポリシーを設ける(例:「生成画像は商用利用禁止です」)

5. AIの学習に提供しないオプトアウトの意思表示も視野に

逆に、自分の描いた作品がAIの学習に使われる側になるリスクもある。
現在、Adobe、DeviantArt、Pixivなど一部プラットフォームでは「AI学習への提供を拒否する」機能がある。

やるべきこと:

  • 使用しているプラットフォームのオプトアウト機能を確認する
  • 作品に「No AI learning」のタグを付ける(多くのAI開発者がフィルタリング対応)
  • GitHubやCreative Commonsでの共有時は、ライセンスに「AI学習不可」と明記する

まとめ

今回の訴訟は、単なる著作権侵害事件ではない。
生成AIという新技術が、既存の法律とどう向き合うかを問う重要な一歩だ。

著作物の利用と創造性のバランス。
自由な表現と法的な責任。そのどちらも軽視できない時代に、AIユーザー自身が自らの行動を問い直す必要がある。

知らなかった」では済まされないフェーズに入っている。


参考リンク

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