はじめに
最近、プロンプトをYAML形式で記述する開発者が急増している。
かつては「自然言語で指示すれば十分だ」と考えられていたが、今やプロンプトは「書くもの」から「設計するもの」へと進化を遂げた。
実を言うと、筆者も当初は「わざわざYAMLを使う必要があるのか」と懐疑的な一人だった。
しかし、大規模言語モデル(LLM)が複雑な論理推論を行うようになり、指示の階層化が不可欠になったことで、YAMLの圧倒的な恩恵を実感した。
現場のエンジニアからも「YAMLに切り替えてから、モデルの推論ミスが減り、チーム内でのプロンプト共有がスムーズになった」という声をよく耳にする。
この記事では、YAML形式でプロンプトを構成するメリットと注意点について深掘りしていく。
YAMLの最大の魅力は「可読性と構造化の両立」だ
YAML(YAML Ain’t Markup Language)は、インデントによってデータの階層を表現する。
JSONのように波括弧 {} やカンマ , を多用しないため、人間にとって直感的に理解しやすいのが特徴だ。
これが開発現場では大きなアドバンテージになる。
例えば、以下のようにコメント(#)を挿入できる点も、プロンプトの意図をチームで共有する際に役立つ。
# 2025年最新の書籍レコメンド設定
task:
goal: ユーザーの好みに合ったSF小説を3冊提案
constraints:
- 過去3年以内の新刊限定
- 日本人作家に限る
output:
format: markdown
include_summary: true
こうした注釈があるだけで、数ヶ月後にプロンプトを見直した際、なぜその制約を設けたのかを即座に思い出せる。
自由記述とYAML、どちらが賢い選択か
「AIなんだから、普通に日本語で書けばいいのでは?」
これは当然の疑問だ。実際、日常的な簡単な質問であれば、自由記述(自然言語)で何ら問題はない。
しかし、業務レベルで一貫性と再現性を求めるなら、話は別だ。
自由記述の場合、指示が増えるにつれて文章が長大化し、指示同士の優先順位が曖昧になりやすい。
「Aという条件を守りつつ、Bも考慮して、でもCの場合は……」といった記述は、AIがどの指示を最優先すべきか迷う原因になる。
そこでYAMLによる構造化が威力を発揮する。
context: "20代の若手ビジネスパーソン向け"
task: "SF小説の推薦"
priority_rules:
- rule_1: "最新の技術トレンド(AI、量子、宇宙開発)が反映されていること"
- rule_2: "短時間で読める短編集を優先"
- rule_3: "絶版のものは除外"
このように明示的にパラメータを分離することで、AIは指示の優先順位を正確に把握できる。
人間にとっても、どの条件を修正すれば出力が変わるのかが一目でわかるため、検証作業(プロンプト・エンジニアリング)の効率が劇的に向上する。
推論モデル(OpenAI GPT-5 Pro / Gemini 3.0)との相性
2025年現在、主流となっている「GPT-5 Pro」や「Gemini 2.0」といった推論特化型モデルでは、モデル内部で「思考の連鎖(Chain of Thought)」が行われる。
これらのモデルに対し、YAMLで「思考のステップ」を構造化して渡すと、驚くほど精度の高い回答が得られる。
筆者の検証では、複雑なロジックを必要とするタスクにおいて、自然言語で指示するよりもYAMLでステップを箇条書きにした方が、論理破綻の発生率が有意に低下した。
構造の見やすさが、AIの「思考の整理」を直接的に助けている印象だ。
トークン効率とコストパフォーマンス
トークン数の節約も、実運用では無視できない要素だ。
JSONと比較した場合、YAMLは閉じ括弧や引用符が不要な分、トークン消費量を10〜20%程度削減できるケースが多い。
1回のプロンプトでは微々たる差かもしれないが、APIを介して数万、数十万回実行されるシステムでは、この差が蓄積して大きなコスト差となって跳ね返ってくる。
「軽くて読みやすい」は、APIコストの面でも正義だ。
Git管理によるプロンプトの資産化
YAMLはテキスト形式であり、Gitとの相性が抜群に良い。
プロンプトの変更履歴をソースコードと同様に管理できるため、以下のような運用が可能になる。
- Diff(差分)の確認: どのパラメータを変更したことで出力が改善されたのかが明確。
- A/Bテスト: 複数のYAMLファイルを切り替えて、モデルの応答精度を比較。
- テンプレート化: 共通の変数(
{{user_name}}など)を埋め込み、動的なプロンプトとして再利用。
プロンプトを「使い捨ての指示」ではなく「管理すべき資産」として扱うなら、YAMLは必然の選択と言える。
YAMLの落とし穴:インデントとモデルの癖
万能に見えるYAMLにも弱点はある。それはインデントに対する厳格さだ。
スペース一つ分のズレが原因で、AIが構造を誤解したり、エラーを吐いたりすることがある。
特に複雑なネスト(階層化)を行う場合は、エディタのLinter機能(構文チェック)を活用するのが無難だ。
また、一部の軽量モデル(小型のSLMなど)では、YAMLよりもXML形式の方が指示を遵守しやすいという特性も見られる。
利用するモデルの「癖」を見極める視点も忘れてはならない。
まとめ
YAML形式でのプロンプト設計には、可読性、保守性、トークン効率、そして最新モデルとの高い親和性という多くのメリットがある。
これからのAI活用は、単に言葉を投げかけるのではなく、AIが最も理解しやすい「データ構造」を設計するフェーズへと移行していく。
その中心にある武器がYAMLだ。
あなたのプロンプトは、AIにとって読みやすく、整理されたものになっているだろうか。
一度、その「構造」を見直してみることをおすすめする。


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