はじめに
システム開発の現場では、開発部門と運用部門が別々に組織化されているケースが多い。開発部門はシステムを設計・構築する役割を担い、運用部門はそのシステムを実際に管理・運用する責任を負う。
しかし、開発と運用の連携が不十分だと、新規サービスの導入時に運用上の課題が浮き彫りになり、スムーズな移行が難しくなる。このため、両部門が協力しながらシステムの設計や移行を進めることが不可欠である。
本記事では、基本情報技術者試験(令和6年)科目A 問14 の問題を通じて、開発と運用の連携を強化する適切な方法を解説する。
基本情報技術者試験(科目A)問14の問題
試験問題
システムの開発部門と運用部門が別々に組織化されているとき,システム開発を伴う新規サービスの設計及び移行を円滑かつ効果的に進めるための方法のうち,適切なものはどれか。
ア. 運用テストの完了後に,開発部門がシステム仕様と運用方法を運用部門に説明する。
イ. 運用テストは,開発部門の支援を受けずに,運用部門だけで実施する。
ウ. 運用部門からもシステムの運用に関わる要件の抽出に積極的に参加する。
エ. 開発部門は運用テストを実施して,運用マニュアルを作成し,運用部門に引き渡す。
解答と解説
この問題の正解は 「ウ. 運用部門からもシステムの運用に関わる要件の抽出に積極的に参加する。」 である。では、それぞれの選択肢が何を意味するのか詳しく見ていこう。
1. 運用部門の要件抽出への参加が不可欠
システムの運用を円滑に進めるためには、運用部門がシステム開発の初期段階から関与し、運用の観点で必要な要件を定義することが重要である。
運用部門の要件抽出への参加のメリット
- 運用上の問題を事前に特定できる
- システムが実際に稼働した際に発生する可能性のある問題を、開発段階で洗い出せる。
- 運用効率の向上
- システムの設計段階から運用の視点を取り入れることで、運用負担の少ない設計が可能となる。
- 開発と運用の認識のギャップを埋める
- 開発側と運用側の間でシステムの認識が異なると、運用開始後に問題が発生しやすい。これを防ぐため、運用部門が要件定義に積極的に関わることが不可欠である。
例えば、次のようなシステム要件を考慮する必要がある:
– システム障害発生時の対応フロー
– 運用監視に必要なログの取得方法
– バックアップとリカバリのプロセス
– システムの操作性(運用担当者が使いやすいインターフェース)
このように、運用部門が要件定義の段階から積極的に関わることで、より運用しやすいシステムを設計できるため、「ウ」が正解 である。
2. 各選択肢の説明
ア. 運用テストの完了後に開発部門がシステム仕様と運用方法を運用部門に説明する
「運用テストの完了後に説明するのでは遅すぎる。運用部門は事前にシステムの運用方法を理解している必要がある。」
システム運用に関する説明は、運用テストの前に行うべき である。運用テストは運用部門が主体となって行うため、運用方法の理解が不十分だとテストが適切に実施できない。
なぜテスト前に説明が必要なのか?
- 運用テストの際に、実際の運用シナリオに基づいてシステムを検証する必要がある。
- システムの運用方法を知らずに運用テストを行うと、適切な評価ができず、不具合を見逃す可能性がある。
- 事前に運用フローを把握することで、テスト時のフィードバックが的確になり、運用に適した改善が可能となる。
このため、「運用テスト完了後の説明」ではなく、「運用テスト前の事前説明」が適切であり、この選択肢は 誤り である。
イ. 運用テストは開発部門の支援を受けずに運用部門だけで実施する
「運用テストは運用部門が主体となって行うが、開発部門の支援が必要である。」
運用テストは運用部門が担当するが、開発部門の支援なしではテストが十分に機能しない。
開発部門の支援が必要な理由
- 運用部門はシステムの全ての機能や仕様を詳細に把握しているとは限らない。
- 予期しないエラーや仕様変更に対応するため、開発部門の技術的サポートが不可欠。
- 運用部門がシステムの挙動を正しく理解し、テストの結果を適切に評価するためにも、開発部門の補助が必要。
したがって、運用部門だけで運用テストを実施するのは 誤り である。
エ. 開発部門は運用テストを実施して、運用マニュアルを作成し、運用部門に引き渡す
「運用テストは開発部門ではなく運用部門が実施し、運用マニュアルも両部門が協力して作成するべき。」
運用テストは、システムを実際に運用する運用部門が主体となって実施すべき である。開発部門が単独で運用テストを行うと、運用の実態を反映した検証ができない。
また、運用マニュアルの作成においても、以下の理由から 両部門の協力が必要 である:
– 開発部門はシステムの仕様を理解しているが、運用の実態を把握していない。
– 運用部門はシステムを実際に使用するため、現場のニーズを反映したドキュメントが必要。
したがって、この選択肢は 誤り である。
3. 開発と運用の連携を強化するためのポイント
開発部門と運用部門が円滑に連携するためには、以下のポイントを意識することが重要である。
施策 | 目的 |
---|---|
運用部門の要件抽出への参加 | 運用に適したシステム設計を実現 |
運用テスト前の運用方法の説明 | 適切なテストの実施と評価を可能にする |
運用テストの実施時に開発部門の支援を受ける | テストの精度を向上し、システムの問題点を早期に特定 |
運用マニュアルを両部門で協力して作成 | 実際の運用に即したマニュアルの整備 |
まとめ
今回の試験問題では、「開発と運用の連携を強化し、新規サービスの設計及び移行を円滑に進める方法」として、「運用部門からもシステムの運用に関わる要件の抽出に積極的に参加する。」(ウ) が正解だった。
ポイントの整理
✔ 運用部門が要件定義に参加することで、運用しやすいシステムを設計できる。
✔ 運用テスト前にシステムの運用方法を説明し、適切なテストを実施する。
✔ 運用テストは運用部門が主体となるが、開発部門の支援を受けることが重要。
✔ 運用マニュアルは両部門が協力して作成し、実際の運用に即した内容にする。
開発と運用の連携を強化することで、よりスムーズなシステム移行が実現できる。
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