はじめに
本問では、契約法、特許法、消費者契約法、代理、留置権についての問題が出題されている。各選択肢を詳しく解説しながら、正誤を判断していこう。
ア.契約に関する問題
契約に関する次のa~dの記述のうち,民法または商法の規定に照らし,その内容が適切なものの組み合わせを①~④の中から1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
a.A社は,B社との間で,A社を貸主,B社を借主とする金銭消費貸借契約を締結し,B社に貸付金を交付した。その後,B社は,不可抗力により,A社に対して,約定の期日に返済をすることができなかった。この場合,B社は,A社から履行遅滞を理由とする損害賠償の請求を受けたときは,不可抗力をもって抗弁とすることができない。
b.A社は,自社の営業所として使用する建物を建築するため,建設会社であるB社との間で請負契約を締結した。この場合,A社およびB社は,ともにいつでも請負契約を解除することができる。
c.倉庫業者であるA社は,B社との間で,B社の商品をA社の倉庫に保管する旨の寄託契約を締結しその商品の引渡しを受けた。この場合,A社は,善良な管理者の注意をもってB社から預かった商品を保管する義務を負う。
d.Aは,B社との間で,Aの指定する価格でCから絵画甲を購入することをB社に依頼する旨の委任契約を締結した。この場合,B社は,Aとの間に報酬の支払いを受ける旨の特約があるときは,Cから甲を購入するにあたり善良な管理者の注意義務を負うが,その旨の特約がないときは,Cから甲を購入するにあたり自己の財産に対するのと同一の注意義務を負う。
① ac ② ad ③ bc ④ bd
【解説】
- a.正しい
→ 不可抗力であっても金銭債務の不履行は免責されない(民法419条)。金銭債務は「代替可能」なものであるため、災害などによる履行不能でも履行遅滞となり、損害賠償の対象となる。 -
b.誤り
→ 請負契約は発注者側からはいつでも解除可能(民法641条)が、請負人(B社)は原則として一方的に解除できない。 -
c.正しい
→ 寄託契約では、受託者(A社)は善良な管理者の注意義務を負う(民法657条)。 -
d.誤り
→ 委任契約において、受任者(B社)は、報酬の有無に関係なく善良な管理者の注意義務を負う(民法644条)。
▶ 正解:①(ac)
イ.特許法に関する問題
特許法に関する次の①~④の記述のうち,その内容が最も適切でないものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
① 同一の発明について異なる日に2以上の特許出願がなされた場合,最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
② 特許法上,特許権は,その設定登録によりその効力を生じ,その存続期間は,原則として特許出願の日から20年をもって終了する。
③ 特許権者は,自己の特許権が第三者に侵害された場合,当該第三者に対して,侵害行為の差止請求,損害賠償請求,信用回復措置請求,不当利得返還請求をすることができる。
④ 特許権者は,その有する特許権について第三者に専用実施権を設定し,その旨の登録をしても,専用実施権を設定した特許発明を自ら自由に実施することができる。
【解説】
- ① 正しい
→ 先願主義が適用され、最先に出願した者が特許を受ける(特許法39条1項)。 -
② 正しい
→ 特許権の存続期間は、原則として特許出願の日から20年間(特許法67条1項)。 -
③ 正しい
→ 特許権者は、侵害行為に対し「差止請求」「損害賠償請求」「信用回復措置請求」「不当利得返還請求」が可能(特許法100条、102条)。 -
④ 誤り
→ 特許権者が専用実施権を設定すると、専用実施権者が特許発明を独占的に実施でき、特許権者自身は自由に実施できない。
▶ 正解:④
ウ.消費者契約法に関する問題
消費者契約法に関する次の①~④の記述のうち,その内容が最も適切なものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
① 消費者契約法は,事業者が消費者に商品を販売する契約のみに適用され,事業者が消費者に役務を提供する契約には適用されない。
② 消費者契約法上の事業者には,法人その他の団体のほか,個人事業主のように,事業としてまたは事業のために契約の当事者となる個人も含まれる。
③ 消費者が消費者契約法に基づき事業者との間の売買契約を取り消した場合,事業者は当該売買契約に基づきすでに消費者から受領していた売買代金を返還する必要はない。
④ 消費者契約において,事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項が定められている場合,当該条項だけでなく,当該消費者契約全体が無効となる。
【解説】
- ① 誤り
→ 消費者契約法は、「商品販売」だけでなく、「役務提供」も対象(例:塾、ジム、携帯契約)。 -
② 正しい
→ 消費者契約法上の「事業者」には、法人だけでなく「個人事業主」も含まれる(消費者契約法2条1項)。 -
③ 誤り
→ 契約が取り消されると、事業者は受領した金銭を返還する義務を負う(消費者契約法4条)。 -
④ 誤り
→ 不当な免責条項は無効になるが、契約全体が無効になるわけではない(消費者契約法8条)。
▶ 正解:②
エ.代理に関する問題
代理に関する次の①~④の記述のうち,その内容が最も適切なものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
① Aは,B社から,B社とC社との間の売買契約締結に関する代理権を授与されたが,C社との売買契約締結に際して,B社のためにすることを示さずに意思表示を行った。この場合,当該売買契約の効果は,B社に帰属することはない。
② Aは,B社から与えられた代理権の範囲を越えて,C社との間で,B社の代理人として売買契約を締結した。この場合,C社が,当該売買契約の締結について,Aに代理権があると誤信し,かつそのように誤信することについて正当な理由があるときは,表見代理が成立する。
③ Aは,B社から代理権を与えられていないにもかかわらず,B社の代理人と称して,C社との間で売買契約を締結した。この場合,C社は,Aに代理権がないことを知っていたとしても,Aに対して当該売買契約の履行の請求または損害賠償の請求をすることができる。
④ Aは,B社から代理権を与えられていないにもかかわらず,B社の代理人と称して,C社との間で売買契約を締結した。この場合,C社は,Aに代理権がないことを知らなかったときに限り,B社に対して相当の期間を定めて当該売買契約を追認するかどうかを催告することができる。
【解説】
- ① 正しい
→ 代理行為では、「本人のためにすること」を明示しないと、代理人自身の契約となる(民法100条)。 -
② 正しい
→ 表見代理が成立するには、第三者(C社)が代理権を信じた正当な理由が必要(民法109条)。 -
③ 誤り
→ C社がAに代理権がないことを知っていた場合は、Aに損害賠償を請求できない(民法117条)。 -
④ 正しい
→ 無権代理の場合、C社はB社に追認を催告できる(民法113条)。
▶ 正解:②
オ.留置権に関する問題
自動車修理業者であるA社は,運送会社であるB社から,B社が所有する甲トラックを修理する旨の依頼を受け,その修理を完了し,保管している。B社は,修理代金の支払期日を経過した後も,その支払いを遅滞している。この場合に関する次のa~dの記述のうち,その内容が適切なものの組み合わせを①~④の中から1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。なお,A社とB社との間には留置権に関する特段の合意はないものとする。
a.A社は,B社から修理代金の支払いを受ける前であっても,B社から甲トラックの返還請求を受けたときは,直ちに甲トラックをB社に返還しなければならない。
b.A社は,B社から修理代金が支払われる前に,任意に甲トラックをB社に引き渡した。この場合,甲トラックに成立していた留置権は,消滅する。
c.B社が修理代金を支払わない場合,A社は,裁判所の競売手続を経ずに留置権を実行して,甲トラックの所有権を取得することができる。
d.B社は,A社に修理代金を支払うことなく,第三者であるC社に甲トラックを譲渡した。この場合,A社は,C社から甲トラックの引渡しを請求されても,修理代金の弁済を受けるまでは,留置権を行使して甲トラックの引渡しを拒むことができる。
① ab ② ac ③ bd ④ cd
【解説】
- a.誤り
→ 留置権が成立している場合、修理代金を受け取るまで引渡しを拒否できる(民法295条)。 -
b.正しい
→ 留置権がある場合でも、債権者(A社)が任意に引き渡したら留置権は消滅する(民法299条)。 -
c.誤り
→ 留置権者は、自己の裁量で物を売却して代金を回収することはできず、競売手続が必要(民法300条)。 -
d.正しい
→ 債務者(B社)が第三者(C社)に譲渡しても、留置権は主張可能(民法299条)。
▶ 正解:③(bd)
まとめ
設問 | 正解 | 解説 |
---|---|---|
ア | ①(ac) | 金銭債務は不可抗力で免責されない、寄託契約は善管注意義務がある |
イ | ④ | 専用実施権を設定すると、特許権者は自由に実施できない |
ウ | ② | 消費者契約法の「事業者」には個人事業主も含まれる |
エ | ② | 表見代理が成立するには、第三者が代理権を信じた正当な理由が必要 |
オ | ③(bd) | 留置権は任意の引渡しで消滅、第三者にも対抗できる |
この問題では、契約、代理、消費者保護、特許、留置権といった幅広い法分野が問われている。特に、「金銭債務は不可抗力でも免責されない」「無権代理の追認請求」「留置権の対抗要件」などは、実務でも重要な知識であるため、しっかりと理解しておこう。
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