はじめに
本問では、製造物責任法、商法、手形法、民法、廃棄物処理法、商標法、時効、労働契約法、物権法、相続法について問われている。それぞれの選択肢を詳しく解説しながら正誤を判断していこう。
問題
次の事項のうち,その内容が正しいものには①を,誤っているものには②を,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
ア.製造物責任法(PL法)
製造物責任法に基づく損害賠償責任を負う「製造業者等」には,製造物の製造や加工を行った者のほか,製造物の流通に関与する流通業者や販売業者もすべて含まれる。
【解説】
PL法では、「製造業者等」には、製造・加工を行った者のほか、輸入業者や自社ブランドで販売する者も含まれる。しかし、単なる販売業者や流通業者は基本的にPL法上の責任を負わない。
▶ 誤り(②)
イ.商号の登記
商法上の商人Xは,商号Aの登記をしようとしたが,商号Aと同一の商号が,他の商人Yによって,甲地を営業所の所在場所として,すでにその登記がなされていた。この場合,Xは,その営業の内容がYと異なるときに限り,甲地を営業所の所在場所として商号Aの登記をすることができる。
【解説】
商業登記法では、同一所在地で同じ商号を使用することは禁止されている。営業内容が異なっても同じ商号の登記は認められない。
▶ 誤り(②)
ウ.手形の独立性
商品の買主がその代金を支払うために売主に対し約束手形を振り出した場合において,その後,当該商品の売買契約が無効となったとしても,約束手形上の債権はその影響を受けず,無効とならない。
【解説】
手形は「独立性の原則」により、基礎となる契約(売買契約)が無効でも、手形自体の効力には影響を与えない。したがって、手形債権は存続する。
▶ 正しい(①)
エ.詐欺による意思表示の取消し
Aは,Bの詐欺によりBに金銭を貸し付ける旨の意思表示をした。この場合,Aは,その意思表示を取り消すことができる。
【解説】
民法では、詐欺による意思表示は取り消すことができる(民法第96条)。
▶ 正しい(①)
オ.廃棄物処理法
廃棄物処理法上,事業者は,その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
【解説】
廃棄物処理法では、事業者は自らの責任で適正に処理する義務がある。
▶ 正しい(①)
カ.商標の登録
X社は,自社の新製品の商品名につき商標登録を受けることを検討している。この場合,X社は,競合他社であるY社がすでに登録を受けている商標と同一の商標については,商標権の設定登録を受けることはできないが,Y社がすでに登録を受けている商標と類似する商標については,自由に商標権の設定登録を受けることができる。
【解説】
商標法では、登録済みの商標と「類似」する商標の登録も原則として認められない。類似商標が登録されると、消費者に混乱を招く可能性があるためである。
▶ 誤り(②)
キ.時効の完成猶予
売主は,買主に対する売買代金債権の消滅時効が完成する前に,買主の財産に対し仮差押えの申立てを行い,その手続が終了した。この場合,当該売買代金債権の消滅時効について,時効の完成猶予が認められる。
【解説】
民法では、仮差押えが行われると、その間は時効の進行が停止(完成猶予)される(民法147条)。
▶ 正しい(①)
ク.労働契約法上の解雇
労働契約法上,使用者による労働者の解雇は,客観的に合理的な理由があれば,社会通念上相当であると認められない場合であっても,有効である。
【解説】
労働契約法では、解雇が有効となるには、「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」の両方が必要(労働契約法第16条)。
▶ 誤り(②)
ケ.用益物権と担保物権
用益物権と担保物権は,いずれも所有権に一定の制限を加える物権である。
【解説】
用益物権(地上権・地役権など)と担保物権(抵当権・質権など)は、いずれも所有権を制限する物権であるため、記述は正しい。
▶ 正しい(①)
コ.相続放棄者の遺産分割協議
相続人の協議による遺産の分割が成立するには,被相続人のすべての法定相続人の合意が必要であり,この法定相続人には,すでに相続の放棄をした者も含まれる。
【解説】
相続放棄をした者は、初めから相続人でなかったものとみなされる(民法939条)。したがって、相続放棄者は遺産分割協議には参加しない。
▶ 誤り(②)
まとめ
設問 | 正誤 | 解説 |
---|---|---|
ア | ② | 流通業者や販売業者は基本的にPL法の責任を負わない |
イ | ② | 同一所在地で同じ商号は、営業内容に関係なく登記できない |
ウ | ① | 手形は基礎契約の影響を受けず独立して存続する |
エ | ① | 詐欺による意思表示は取り消せる |
オ | ① | 事業者は廃棄物を適正に処理する義務を負う |
カ | ② | 登録済みの商標と類似する商標の登録も原則としてできない |
キ | ① | 仮差押えをすると時効の完成が猶予される |
ク | ② | 解雇は「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」の両方が必要 |
ケ | ① | 用益物権と担保物権はいずれも所有権を制限する物権 |
コ | ② | 相続放棄者は遺産分割協議に参加しない |
この問題では、民法や商法を中心とした基本概念を問う問題が多く、実務でも役立つ知識が含まれている。試験対策だけでなく、日常業務のトラブル防止のためにも理解を深めておきたい。
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