はじめに
G検定(ジェネラリスト検定)では、人工知能の基本概念や機械学習の代表的な手法についての知識が幅広く問われる。なかでも、時系列データの扱いに関係する「隠れマルコフモデル(HMM)」は頻出トピックの一つだ。
今回は、実際のG検定過去問を取り上げながら、隠れマルコフモデルに関する基礎を整理し、正解を導くための視点を養っていく。
問題:最も不適切な説明を選べ
隠れマルコフモデルの説明として、最も不適切な選択肢を選べ。
選択肢
- 音声データなどの系列データのモデルとして用いられることは少ない
- 確率モデルの1つである
- 混合正規分布モデルに基づく隠れマルコフモデルとして、GMM-HMMがある
- 観測されない(隠れた)状態をもつマルコフ過程である
正解は「1. 音声データなどの系列データのモデルとして用いられることは少ない」
この選択肢が不適切とされる理由を理解するために、まず隠れマルコフモデルの基本をおさらいしておこう。
隠れマルコフモデルとは何か?
隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model, HMM)は、時系列データを扱う際に広く使われる確率モデルの一種。
その本質は次の2点にある:
- 状態の遷移が確率的に決まる
- 観測できるデータは、実際の状態(隠れ状態)によって生じるが、その状態自体は直接観測できない
たとえば、音声認識では「発音されている音素(隠れ状態)」が直接見えない一方で、マイクで拾った「音の波形(観測データ)」が手がかりとなる。
各選択肢の検証
選択肢1:音声データなどの系列データのモデルとして用いられることは少ない
→ 不適切(正解)
隠れマルコフモデルは、むしろ音声認識や自然言語処理など、系列データのモデルとして非常に多く使われてきた歴史がある。
特に、ディープラーニング登場以前は、音声認識の主力モデルとしてGMM-HMMが一般的であった。
この説明は明らかに事実と反する。
選択肢2:確率モデルの1つである
→ 適切
HMMは、状態遷移や観測の生成に関して確率分布を用いて構成されている。
そのため、「確率モデル」という表現は正確で問題ない。
選択肢3:混合正規分布モデルに基づく隠れマルコフモデルとして、GMM-HMMがある
→ 適切
GMM-HMMとは、各隠れ状態から観測される出力が混合ガウス分布(GMM)に従うモデルであり、音声認識の分野では標準的な手法として使われてきた。
この選択肢は、実際のモデル構成を正しく表現している。
選択肢4:観測されない(隠れた)状態をもつマルコフ過程である
→ 適切
隠れマルコフモデルの最大の特徴は、状態が観測できないことにある。
観測できるのは、その状態に基づいて発生するデータ(出力)だけだ。
この選択肢はモデルの本質を正しく説明している。
補足:HMMが使われる代表的な分野
隠れマルコフモデルは以下のような領域で多用されてきた:
- 音声認識:音素の推定に利用
- 自然言語処理:品詞タグ付けや固有表現抽出など
- ジェスチャー認識:時間的な動きの推定に活用
- バイオインフォマティクス:DNA配列のモデル化
近年はLSTMやTransformerといった深層学習モデルが主流になっているものの、HMMは今なお概念的基礎として重要な位置づけにある。
まとめ
G検定のような知識試験では、ただ正解を覚えるのではなく、「なぜ他の選択肢が誤っているのか」を理解しておくことが鍵となる。
✅ 隠れマルコフモデルは、系列データのモデルとして代表的な存在
✅ 音声認識や自然言語処理を支えてきた実績がある
✅ 「音声データにはほとんど使われない」は明らかな誤り
✅ モデルの構成要素(状態遷移・観測モデル)を正確に把握しておこう
本問のように、常識的な誤りを見抜く力もG検定合格のためには不可欠だ。
過去問を通じて、確かな知識と判断力を身につけていこう。


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