はじめに
本問では、労働関係、期限・条件、夫婦の財産関係、支配人の権限、相殺についての正誤が問われている。それぞれの選択肢を詳しく解説しながら、正解を導いていこう。
問題 第10問
次のア~オの設問に答えなさい。
ア.労働関係
A社における労働関係に関する次の①~④の記述のうち,その内容が最も適切なものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。なお,A社には同社の労働者の過半数で組織するB労働組合が存在する。
① A社は,B労働組合から団体交渉の申入れがなされた場合,特段の理由がなくてもこれを拒否することができる。
② 労働組合法上,B労働組合は,A社から労働基準法所定の労働時間(法定労働時間)を超えて労働者に労働させるよう指示を受けたときは,労働者に法定労働時間を超えて労働させなければならない。
③ 労働基準法上,A社は,A社の労働者の請求する時季に年次有給休暇を与えなければならないが,その請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる。
④ A社の労働者のうち,雇入れの日から5年を経過していない者には,労働基準法は適用されない。
【解説】
- ① 誤り
→ 使用者は正当な理由なく団体交渉を拒否できない(労働組合法7条)。 -
② 誤り
→ 時間外労働には労使協定(36協定)の締結が必要(労働基準法36条)。 -
③ 正しい
→ 有給休暇の取得時期は原則労働者の自由だが、事業の正常な運営を妨げる場合は変更できる(時季変更権)(労働基準法39条)。 -
④ 誤り
→ 労働基準法は全ての労働者に適用される(適用除外は特定の職種のみ)。
▶ 正解:③
イ.期限・条件
期限,条件および期間に関する次のa~dの記述のうち,その内容が適切なものの組み合わせを①~④の中から1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
a.期限を定めることによって享受できる利益を期限の利益といい,民法上,期限の利益は,債務者ではなく債権者のために定めたものと推定される。
b.契約の効力の発生ないし履行を,「人の死亡」のように,発生することは確実であるが,いつ到来するかは確定していない事実にかからせる特約は,解除条件に該当する。
c.条件のうち,条件の成就により契約の効力を生じさせるものを停止条件という。例えば,一定期日までにA社が新技術の開発に成功することを条件に売買契約の効力が生じると定めた場合がこれに当たる。
d.「日,週,月または年」を基準として期間が定められた場合,民法の定める期間の計算方法によれば,原則として,初日は期間に算入されない。① ab
② ac
③ bd
④ cd
【解説】
- a.誤り
→ 期限の利益は「債務者のため」に推定される(民法136条)。 -
b.誤り
→ 「人の死亡」は確実に発生するため、「期限」に該当する(民法131条)。解除条件ではない。 -
c.正しい
→ 停止条件とは、成就したときに契約が発生する条件を指す(民法127条)。 -
d.正しい
→ 「日・週・月・年」の計算では、初日は算入しない(民法140条)。
▶ 正解:④(cd)
ウ.夫婦の財産関係
XとYが夫婦である場合に関する次の①~④の記述のうち,民法の規定に照らし,その内容が最も適切なものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
① 婚姻後にXが物を購入したことによって負った債務につき,Yが支払義務を負うことは一切ない。
② 婚姻後にXとYとの間で締結された契約は,婚姻中,いつでも,XとYの一方から取り消す113級 問題ことができる。
③ 婚姻後にXが相続により取得した財産は,XとYの共有財産とされる。
④ XとYが離婚した場合,婚姻に際して改氏したYは,婚姻前の氏に復し,いかなる場合でも,離婚時に称していた氏をそのまま称することはできない。
【解説】
- ① 誤り
→ 夫婦の一方が日常生活の範囲内で負った債務は、他方にも支払義務が生じることがある(民法761条)。 -
② 誤り
→ 夫婦間の契約も一般契約と同様、取り消すことはできない(民法754条:婚姻中の契約取消しの規定は廃止)。 -
③ 誤り
→ 相続財産は取得者個人のものとなり、夫婦共有財産にはならない(民法896条)。 -
④ 正しい
→ 離婚時に婚姻前の姓に戻るのが原則だが、例外として「離婚の際に称していた氏を継続する届出」を行えば変更せずに済む(民法767条)。
▶ 正解:④
エ.支配人の権限
株式会社における会社法上の支配人に関する次のa~dの記述のうち,その内容が適切なものを○,適切でないものを×としたときの組み合わせを①~④の中から1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
a.支配人の選任および解任は,株主総会で行わなければならない。
b.支配人は,会社の許可を受けなければ,他の会社の取締役,執行役または業務を執行する社員となることができない。
c.会社が支配人の代理権に一定の制限を加えた場合,会社はその制限を善意の第三者に対しても主張することができる。
d.会社が支配人を解任した後,解任の登記をする前に,その支配人であった者が,当該会社の支配人と称して善意の第三者との間で取引を行ったとしても,取引の効果が会社に帰属することはない。① a-○ b-○ c-× d-○
② a-○ b-× c-○ d-×
③ a-× b-○ c-× d-×
④ a-× b-× c-○ d-○
【解説】
- a.誤り
→ 支配人の選任・解任は取締役会の決定事項であり、株主総会ではない(会社法24条)。 -
b.正しい
→ 支配人は会社の許可を得ずに他社の取締役などに就任できない(会社法14条)。 -
c.誤り
→ 支配人の代理権の制限は、善意の第三者には対抗できない(会社法21条)。 -
d.誤り
→ 支配人の解任登記前に行われた取引は、会社に帰属する(会社法20条)。
▶ 正解:③(a×、b○、c×、d×)
オ.相殺
民法上の相殺に関する次の①~④の記述のうち,その内容が最も適切でないものを1つだけ選び,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。なお,本問の各債権には相殺に関する特約は付されていないものとする。
① A社はB社に対して建物の引渡請求権を有し,B社はA社に対して2000万円の貸金債権を有している。両債権の履行期が到来している場合,A社は,両債権を相殺することができない。
② A社はB社に対して100万円の賃料債権を有し,B社はA社に対して120万円の貸金債権を有している。両債権の履行期が到来している場合,A社は,両債権を対当額で相殺することができる。
③ A社はB社に対して履行期の到来していない50万円の賃料債権を有し,B社はA社に対して履行期の到来した50万円の貸金債権を有している。この場合,A社は,両債権を相殺することができない。
④ A社はB社に対して履行期の到来した200万円の賃料債権を有し,B社はA社に対して履行期が到来していない200万円の貸金債権を有している。この場合,A社は,両債権を相殺することができない。
【解説】
- ① 正しい
→ 相殺には「同種の債権」が必要。引渡請求権は金銭債権と相殺できない(民法505条)。 -
② 正しい
→ 履行期が到来した金銭債権同士は相殺できる(民法505条)。 -
③ 正しい
→ 履行期未到来の債権は相殺できない(民法505条)。 -
④ 誤り
→ 相殺の要件は「相殺適状」にあること。履行期が到来していない債権をもって相殺はできない(民法505条)。
▶ 正解:④
まとめ
設問 | 正解 | 解説 |
---|---|---|
ア | ③ | 年次有給休暇の時季変更権 |
イ | ④(cd) | 停止条件・期間計算の初日は算入しない |
ウ | ④ | 離婚時の氏の選択が可能 |
エ | ③(a×、b○、c×、d×) | 支配人の選任は取締役会が行う |
オ | ④ | 履行期未到来の債権は相殺できない |
この問題では、労働基準法の有給休暇、期限と条件の適用、夫婦の財産関係、会社法の支配人の権限、相殺の適用範囲などが問われている。
特に、「労働基準法の年次有給休暇の取り扱い」「相殺の要件」「支配人の代理権制限」などは、試験だけでなく実務にも役立つため、しっかりと理解しておこう。
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