はじめに
本問では、意匠法、権利能力、保証債務、遺言、過失責任主義、労働者派遣法、印紙税法、特別背任罪、即決和解、強迫による意思表示の取消しについての正誤が問われている。各選択肢について詳しく解説しながら正誤を判断していこう。
問題 第8問
次の事項のうち,その内容が正しいものには①を,誤っているものには②を,解答用紙の所定欄にその番号をマークしなさい。
ア.意匠法上の意匠は,物品の形状,模様もしくは色彩もしくはこれらの結合(形状等),建築物の形状等または一定の画像であって,視覚を通じて美感を起こさせるものである。
イ.権利能力は,自然人に認められるだけでなく,自然人の団体や財産の集合にも認められ得る。
ウ.保証人が民法の規定に従い債権者に対し保証債務を履行したとしても,民法上,当該保証人には,主たる債務者に対する求償権は認められない。
エ.民法の規定に基づきいったん有効になされた遺言は,撤回することができない。
オ.他人に損害を与えたとしても,故意または過失がなければ損害賠償責任を負わないという原則は,過失責任主義と呼ばれる。
カ.労働者派遣法上,労働者派遣事業を行うことができる業務に制限はなく,派遣元事業主は,自己の雇用する労働者を派遣労働者としてあらゆる業務に派遣することができる。
キ.契約書のうち,印紙税法に基づき印紙を貼付する必要のあるものは,印紙を貼付しなければ,当該契約書で合意された契約自体が無効となる。
ク.X銀行の融資担当役員Yは,事実上破綻状態にある取引先Z社に,十分な担保をとらずに融資をした結果,X銀行に損害が生じた。この場合,Yは,X銀行に対する損害賠償責任を負うだけでなく,特別背任罪に問われる可能性がある。
ケ.即決和解は,裁判所の関与を受けることなく,紛争当事者間における法的な紛争の解決に向けた合意を前提に和解を行う手続である。
コ.Xは,Yに強迫されて,自己の所有する自宅建物をYに売却し,所有権移転登記を経た。その後,Yは,この事情を知らず,かつ知らないことに過失のないZに当該建物を売却し,所有権移転登記を経た。この場合において,Xは,強迫による意思表示を理由にYとの間の売買契約を取り消したときは,Zに対して当該建物の所有権を主張することができる。
ア.意匠法の定義
意匠法上の意匠は,物品の形状,模様もしくは色彩もしくはこれらの結合(形状等),建築物の形状等または一定の画像であって,視覚を通じて美感を起こさせるものである。
【解説】
意匠法では、「物品」「建築物」「画像」の形状・模様・色彩等を対象とし、視覚を通じて美感を与えるものが意匠として保護される(意匠法2条)。
この記述は適切。
▶ 正しい(①)
イ.権利能力の範囲
権利能力は,自然人に認められるだけでなく, 自然人の団体や財産の集合にも認められ得る。
【解説】
法人は法律によって権利能力が認められる(民法3条)。また、「財団法人」などは財産の集合体として権利能力を持つ。
この記述は適切。
▶ 正しい(①)
ウ.保証人の求償権
保証人が民法の規定に従い債権者に対し保証 債務を履行したとしても,民法上,当該保証人 には,主たる債務者に対する求償権は認められ ない。
【解説】
保証人は主たる債務者に対し「求償権」を有する(民法459条)。
したがって、この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
エ.遺言の撤回
民法の規定に基づきいったん有効になされた 遺言は,撤回することができない。
【解説】
遺言は、遺言者が自由に撤回できる(民法1022条)。
したがって、この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
オ.過失責任主義
他人に損害を与えたとしても,故意または過 失がなければ損害賠償責任を負わないという原 則は,過失責任主義と呼ばれる。
【解説】
民法709条により、故意または過失がなければ損害賠償責任を負わない。これを「過失責任主義」と呼ぶ。
この記述は正しい。
▶ 正しい(①)
カ.労働者派遣法の業務制限
労働者派遣法上,労働者派遣事業を行うこと ができる業務に制限はなく,派遣元事業主は, 自己の雇用する労働者を派遣労働者としてあら ゆる業務に派遣することができる。
【解説】
労働者派遣法には派遣禁止業務が存在する(例:港湾運送、建設、医療行為など)。
この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
キ.印紙税法と契約の有効性
契約書のうち,印紙税法に基づき印紙を貼付 する必要のあるものは,印紙を貼付しなければ, 当該契約書で合意された契約自体が無効とな る。
【解説】
印紙税を貼らなかった場合、税務上の罰則(過怠税)はあるが、契約自体は有効。
この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
ク.特別背任罪
X銀行の融資担当役員Yは,事実上破綻状態 にある取引先Z社に,十分な担保をとらずに融 資をした結果,X銀行に損害が生じた。この場 合,Yは,X銀行に対する損害賠償責任を負う だけでなく,特別背任罪に問われる可能性があ る。
【解説】
会社法960条により、役員が自己や第三者の利益のために会社に損害を与えた場合、「特別背任罪」が成立する可能性がある。
この記述は正しい。
▶ 正しい(①)
ケ.即決和解
即決和解は,裁判所の関与を受けることなく, 紛争当事者間における法的な紛争の解決に向け た合意を前提に和解を行う手続である。
【解説】
即決和解は裁判所の関与のもとで行われる(民事調停法)。
この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
コ.強迫による意思表示と第三者
Xは,Yに強迫されて,自己の所有する自宅 建物をYに売却し,所有権移転登記を経た。そ の後,Yは,この事情を知らず,かつ知らない ことに過失のないZに当該建物を売却し,所有 権移転登記を経た。この場合において,Xは, 強迫による意思表示を理由にYとの間の売買契 約を取り消したときは,Zに対して当該建物の 所有権を主張することができる。
【解説】
強迫による意思表示は取り消し可能(民法96条)。しかし、取消し前に事情を知らずに取得した第三者(善意無過失の第三者)には取消しの効力を主張できない。
この記述は誤り。
▶ 誤り(②)
まとめ
設問 | 正誤 | 解説 |
---|---|---|
ア | ① | 意匠法の定義は適切 |
イ | ① | 法人や財団法人も権利能力を持つ |
ウ | ② | 保証人は求償権を有する |
エ | ② | 遺言は自由に撤回できる |
オ | ① | 過失責任主義は正しい |
カ | ② | 労働者派遣には禁止業務がある |
キ | ② | 印紙税を貼らなくても契約は有効 |
ク | ① | 役員の不正融資は特別背任罪の可能性あり |
ケ | ② | 即決和解は裁判所が関与する |
コ | ② | 強迫取消しでも善意の第三者には対抗できない |
この問題では、意匠法、保証債務、特別背任罪、即決和解、強迫取消しの制限など、重要な法律概念が問われている。特に、「保証人の求償権」や「特別背任罪の成立要件」は、実務でも重要なのでしっかり押さえておこう。
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