はじめに
「もしCOBOLがそんなに問題なら、なぜ今でも使われているのか?」
これは、長年にわたって議論され続けている疑問だ。
COBOL(Common Business-Oriented Language)は1959年に誕生したプログラミング言語で、主に金融機関や企業の基幹業務システムで使われてきた。
現在でも、多くの銀行、保険会社、大企業がCOBOLで動くシステムを維持している。
しかし、プログラミング界隈では「COBOLはもう時代遅れ」「維持が大変」といった声も多い。
それでも、なぜこの古い言語が使われ続けているのか?
この記事では、COBOLの現状と、それが抱える課題、そして今後の展望について考えてみよう。
COBOLは本当に問題なのか?
結論から言えば、COBOL自体が「問題」なのではない。むしろ問題は、COBOLのエコシステムと、それに関わる人材の減少にある。
COBOLを擁護する立場からすれば、こう主張するだろう。
- COBOLは安定している
「壊れていないものは直すな」という格言があるように、COBOLで動くシステムは驚くほど安定している。社会インフラや金融取引システムなど、ミッションクリティカルな業務を長年支えてきた実績がある。 -
処理性能が高い
COBOLは金融業界の固定小数点計算に特化しており、桁数の厳密な管理が求められる銀行や保険業界では今も優れた選択肢となる。 -
大量のCOBOLコードが既に動いている
多くの企業がCOBOLで開発した業務システムを今も使い続けており、そのコード量は数千万行にも及ぶ。これを完全に書き換えるには膨大な時間とコストがかかる。
では、なぜCOBOLは問題視されるのか?
COBOLの問題点として挙げられるのは以下の点だ。
- COBOL技術者の減少
ほとんどのCOBOLプログラマーは現在60歳以上であり、次世代の開発者がほとんどいない。新たに学ぶ人も少なく、企業は人材確保に苦しんでいる。 -
モダンな開発環境との非互換性
現在のクラウド技術やマイクロサービスアーキテクチャに適応するのが難しく、システムの拡張や統合が困難になる。 -
仕様のブラックボックス化
何十年にもわたってカスタマイズされ続けたCOBOLシステムは、もはやオリジナルの仕様書が存在せず、誰も全体像を把握できない状態になっている。 -
移行コストの高さ
「COBOLシステムをモダンな言語に書き換えればいい」と考える人もいるが、実際には非常に難しい。
例えば、ある企業がCOBOLアプリケーションをJavaに移行しようとした際、見積もりは6年・2000万ドル。おそらく今ならその3倍以上のコストがかかるだろう。
なぜCOBOLは使われ続けるのか?
① 埋没コスト(Sunk Cost)の問題
COBOLで構築されたシステムの初期開発には莫大な費用がかかっている。これを捨てて新しいシステムに置き換えるには、さらに膨大なコストが必要となる。
また、書き換えたシステムが本当に問題なく動く保証はなく、一度移行に失敗すれば、その影響は計り知れない。
② 高い信頼性と安定性
COBOLのシステムは、数十年間にわたって運用されてきた実績があり、非常に安定している。特に金融機関や基幹業務のシステムでは、一瞬たりとも停止が許されない。代替システムが万が一にも障害を起こしたら、社会は大混乱に陥る。
③ 変革のハードルが高い
企業がITシステムを全面的に刷新するには、莫大なコストとリスクが伴う。
例えば、銀行のCOBOLシステムを全面的に移行するには、単にプログラムを書き換えるだけでなく、取引データや口座管理システム、さらにはATMネットワークなど、あらゆるシステムとの連携を考慮しなければならない。
そのため、IT担当者の間では「現行システムが動いている限り、極力変更は避けたい」という心理が働く。
④ 替えが効かない
COBOLシステムの仕様は独自にカスタマイズされており、単純に新しい言語に書き換えれば済む話ではない。
「COBOLからJavaに移行すればいい」と思うかもしれないが、それは都市の基盤をすべて壊してゼロから作り直すようなものだ。
一部のシステムは、過去のバグすら「仕様」として組み込まれており、完璧に移行することはほぼ不可能に近い。
COBOLの未来はどうなるのか?
現実的には、COBOLを完全に廃止することは難しい。では、今後どのようなシナリオが考えられるだろうか?
- 徐々に置き換えていく(レガシーマイグレーション)
一度に移行するのではなく、部分的に新しいシステムに置き換えていく方法がある。ただし、この方法でも完全移行には数十年単位の時間がかかる。 -
COBOL技術者の育成
COBOLを使い続ける前提で、新しいプログラマーを育成することも考えられる。例えば、現在IBMなどはCOBOLのオンライン講座を提供しており、一部の企業は若手エンジニアにCOBOLを学ばせようとしている。 -
AIを活用した自動移行
AIによるコード変換技術が発展すれば、COBOLコードをよりモダンな言語に移行することも可能になるかもしれない。しかし、現在の技術レベルでは完全な移行はまだ困難だ。
まとめ
COBOLは問題なのか?それとも必要悪なのか?
答えは「状況による」。確かにCOBOLは古く、技術者の減少も問題となっている。
しかし、現実的にはCOBOLのシステムを完全に置き換えることは非常に困難であり、多くの企業や機関は「壊れていないものを直さない」道を選び続けている。
COBOLの未来はまだ見えない。
しかし、ひとつ確かなのは、「COBOLが消えるのは、まだまだ先の話になりそうだ」ということだ。
参考リンク
- COBOLを学ぶ(IBM公式オンラインコース)
- COBOLの現状と課題(IPA 独立行政法人情報処理推進機構)
- 金融システムとCOBOLの依存問題(日本銀行調査レポート)
- 米連邦政府のCOBOL依存に関するGAO報告書(英語)
- レガシーシステム刷新の失敗事例と教訓(ITmedia)
- COBOL移行支援におけるAI活用の可能性(ZDNet Japan)
- COBOLをJavaに変換するためのツールと課題(Micro Focus公式)
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